『anan』は「アンノン族」という言葉があったように、旅をオシャレな写真やイラストを用いて紹介し、女性が自主的に楽しめるように変えました。1970年代の『anan』の旅は女性同士、あるいはひとりで楽しむものだったのですが、なんと1983年の『anan』No.387では「男(あなた)と行く京都」という特集を組んでいます。旅に行くパートナーを「男」に限定しているのです。旅のノウハウを身につけた女性たちが、旅という非日常で男性たちをリードする方法が書いてあるのかと思いましたが、少し違いました。
今回ピックアップしたのはこちらのページ。この「予約しないで」という小説から「男(あなた)と行く京都」特集はスタートします。そして、この小説の中に出てきたお店等を後半の特集で紹介するというスタイルです。
小説の登場人物は21歳の女子大学生と、彼女より6歳年上の彼のふたり。
ふたりは初めての旅行で京都へ行きます。観光を楽しみますが、彼女は彼に子ども扱いされたことが面白くなくて、早朝宿泊先のホテルを抜け出します。フラッと立ち寄った店でナンパされますが、なんだかんだ彼にゾッコンの彼女はポケットから10円玉を取り出しホテルに電話。仲直りをして再び京都観光をして、ディナーへ出かける、というストーリーです。細かく見ていくと驚く描写がたくさんありました。
① 旅に誘い出すのは彼(しかも彼女はそれが泣きたいほど嬉しかった)
② 彼女の「もっと素敵なのは、ひとりじゃない。」という一節
③ 食事先を決めるのは彼
④ 宿を予約したのも彼
⑤ 観光スポットを案内するのも彼
そう、すべて彼が旅をリードしているんです。ディナーのお店を彼に「予約して」というところで物語は終わりますが、このお店も彼女が見つけたものではなく、彼が元々知っていたお店です。
創刊からずっと『anan』は女性ならではの旅の楽しみ方の提案をしてきたのに、一体どういうこと? と思いましたが、答えは小説のタイトル「予約しないで」でした。
彼と一緒に旅行に行きたい、少しはリードもされたい、だけど本当は私だって旅先でいろいろできるしひとりの行動だってできるのよ、という当時の女性たちの複雑すぎる心理やかけひきを『anan』は読み取って「男(あなた)と京都へ」という特集に仕上げたのでした。本当はできるけど、自分では「予約しないで」彼にまかせる、その結果を受け入れる、という高等テクを紹介している。さすがです。
1983年7月1日発売(7月8日号) No.387